音楽の友 2021年9月号

Rondoより

8台の鍵盤楽器を用いた多彩なプログラム

小倉貴久子「フォルテピアノ・アカデミーSACLA」

 フォルテピアノ奏者の小倉貴久子による「第3回フォルテピアノ・アカデミーSACLA」が、7月17〜19日にさいたま市プラザウエストで開催(コロナ禍で1年延期)。8台の鍵盤楽器を用いた、多彩なプログラムが行われた。

 メインの公開レッスンでは、ピアノの発明者クリストーフォリの復元楽器(1726)、ドイツのオルガン製作者ジルバーマンの復元楽器(1746)、古典派の作曲家に愛用されたウィーン・アクションのヴァルター(1795)の復元楽器、イギリスのブロードウッド製スクエアピアノ(1814)を使用。受講生は、「J.S.バッハ《イギリス組曲》をジルバーマンで」「モーツァルトのソナタをヴァルターで」「シューベルト《楽興の時》をブロードウッドで」という具合に、作品にふさわしい楽器でレッスンを受ける。ときには別の楽器でタッチや音色を比べたり、ピアノとは発音機構の異なるクラヴィコードで表現をふくらませたりすることも。古楽器は初めてという小学生から、ある程度経験のある音大生やピアノ教師まで、受講生9名の年齢も経歴もさまざま。ピアノを初めて2年の60歳代男性は、L.モーツァルトの《ナンネルの楽譜帳》を携えてジルバーマンに向かっていた。

 受講生は、連日のレッスンの合間に別室でも練習に励み、最終日のコンサートで成果を発表。実演をまじえた、具体的で示唆に富む小倉の指導の魅力はもちろん、楽器の提供やメンテナンスを担う、製作者や技術者のサポートがあってこその、充実した3日間だった。

〔各写真の説明文〕

・トークコンサート(7月18日)では、ボッケリーニ、モーツァルト、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタを演奏。アンサンブルを通して、各楽器の役割や響きのバランスが見えてくる。左から特別ゲストの桐山建志(vn)、小倉貴久子(fp)

・使用する打弦鍵盤楽器の紹介を兼ねたオープニング・コンサート(7月17日)。15世紀の理論書に基づいて復元されたクラヴィシンバルムで、中世の写本に残る楽曲も演奏された。

・「師弟はなぜ『そのピアノ』を選んだのか?」と題したスペシャルトーク(7月19日)には、ベートーヴェンの会話帳捏造事件に関する著書で話題のかげはら志帆氏が登場。ベートーヴェンと二人の弟子リースとチェルニーに焦点を当て、ピアノをめぐる三者三様の人生模様が解き明かされた。

・「小・中学生のためのワークショップ」(7月18日)では、子供たちが6台の鍵盤楽器を実際に鳴らして、響きやタッチを体験

取材・文=工藤啓子氏


ムジカノーヴァ 2021年9月号より

Report 「フォルテピアノ・アカデミーSACLA」

〜小・中学生のためのワークショップ

作曲家が愛した楽器の音色に耳を傾け、

実際に弾いてみることで気づく、大切なこと

 フォルテピアノ奏者の小倉貴久子さんがプロデュースする「フォルテピアノ・アカデミーSACLA」の第3回が7月17〜19日に開催、定員9名のアカデミー受講生枠が告知後瞬時に埋まったことからも、注目度の高さが伺える。会場には18〜19世紀初頭の打弦鍵盤楽器7台が勢ぞろいして圧巻、それらを使用してのレッスンの他にも桐山建志(vn)を迎えたコンサートや『ベートーヴェン捏造』の著者かげはら史帆によるスペシャルトークなど、盛り沢山な内容だ。その中で「小・中学生のためのワークショップ」に伺った。

 まずはじめに小倉さんによる演奏で、15世紀の文献から復元されたクラヴィシンバルム(もしも本当に製作されていたらピアノの最も古い祖先!)による《キラキラ星》、ピアノの発明者クリストーフォリの復元楽器による《調子のよい鍛冶屋》、バッハの友人であったジルバーマンの復元楽器によるペッツォルト《メヌエット》、そのバッハが愛したクラヴィコードによる《インヴェンション第1番》、モーツァルトやベートーヴェンが愛用したヴァルターによる《トルコ行進曲》、イギリスで大流行したブロードウッド製作のスクエアピアノ(1814年)による《エリーゼのために》。特にこの《エリーゼのために》がノスタフルジックな響きで、しっとりとした大人の音楽となっていたことがとても新鮮だった。

 現代ピアノへ通じるイギリス式アクション(突き上げ式)のクリストーフォリ〜ジルバーマン〜ブロードウッドと、100年以上前のウィーン式アクション(跳ね上げ式)で革のハンマーヘッドによる明快な発音と膝ペダルが特徴的なヴァルター、音量は小さいが弦楽器のようにヴィブラートをかけて歌わせることができるクラヴィコード。これら「ピアノの歴史」を一望するような楽器の中から4台を、参加者が実際に弾くことができる贅沢な時間が設けられた。初めは恥ずかしがっていた子供たちも、普段弾いているブルクミュラーのような曲がまったく違って聞こえる面白さに、徐々に夢中に。タッチも響きも異なる様々な個性の楽器を弾き比べる体験を通して、作品の魅力を再発見したり、楽器によって表現がおのずと変わることを身をもって知ることができただろう。そして、作曲家にインスピレーションを与えた楽器を弾くことで、作曲家や作品がより身近に感じられるようになったに違いない。何よりも、一流の製作者による楽器を弾くこと自体が滅多に得られない機会であり、ぜひ今後も継続してほしい。


ムジカノーヴァ 2021年11月号・12月号

古典派を弾くときに知っておきたい 18世紀奏法の基本

フォルテピアノ・アカデミーSACLAの小倉貴久子さんのレッスンから

取材・文ー中嶋恵美子氏(ピアノ指導者)

 

 作曲家が作曲した時代の鍵盤楽器(打弦)でレッスンが受けられる、フォルテピアノ・アカデミーSACLAの第3回が7月17日〜19日にさいたま市プラザウエストにて開催されました。講師はフォルテピアノ演奏第一人者の小倉貴久子さん。受講生は毎日クラヴィコードとフォルテピアノで練習ができ、レッスンも全日(3日間)あります。「今日はどの楽器でレッスンする?」から始まる、なんとも贅沢なレッスン。会場には、ピアノの発明者クリストーフォリ、クリストーフォリの影響を受けたジルバーマン、モーツァルトが愛用したヴァルターなどの復元楽器がずらりと並び、当時の楽器の響き、タッチを体感しながら、それぞれの時代様式を学んでいきます。

 

【11月号】

・拍の表裏には主従関係がある

・不均等な16分音符で生き生きとしたパッセージを弾く

・小節線を超えたところは音を繋がない

・同じ音型は繋げず音の隙間を作る

・記譜より短く切る音符

・時代による奏法の違い

【12月号】

・指のスピードで音量を増減させる

・腕の重さを載せると指の速度が鈍る

・暴れずにフレーズを感じるオクターヴのスタッカート

・身体の使い方

・バスの連打の続く音型で音楽の流れを止めない手指の使い方

・オーバーレガートの効果

 

*12のレッスン動画に簡単アクセスできるQRコードつきの記事になっています。