音楽の友2019年9月号

Rondoより

7台の楽器が並ぶ

小倉貴久子の「フォルテピアノ ・アカデミー」

 7月13〜15日、さいたま市プラザウエストで、フォルテピアノ 奏者の小倉貴久子がプロデュースする「第2回フォルテピアノ ・アカデミーSACLA」が開催。ピリオド楽器を用いた公開レッスンを中心に、趣向を凝らしたコンサートやワークショップが行われた。

 初日は、小倉が7台の楽器を紹介するコンサートで開幕。クリストーフォリによる初期型ピアノからモーツァルト時代のウィーン式ピアノ、イギリス式スクエアピアノ、ショパンがマヨルカ島に運び入れた楽器と同型の「ピアニーノ」など、18〜19世紀の多様な鍵盤楽器が演奏された。第2日(14日)は、ダルシマー奏者の小川美香子がクラヴィシンバルム(15世紀の理論書に基づく復元打弦楽器)を聴かせる「ピアノの祖先コンサート」と、チェロの鈴木秀美が小倉とベートーヴェン作品を共演するレクチャー・コンサート、第3日(15日)は小・中学生のためのワークショップと、受講生9名がレッスンの成果を披露するコンサートが行われた。

 連日の公開レッスンでは、J.S.バッハから古典派、ショパンまで、さまざまな様式の作品により示唆に富む指導が繰り広げられた。鍵盤のタッチやアーティシュレーション、テンポなど、各楽器のメカニズムや当時の演奏習慣を踏まえたアドヴァイスが、「学術的」の域を超えて生き生きとした表現を生む。タンゲンテンフリューゲルやクラヴィコードなど、ピアノと発音機構のちがう楽器の体験も、レッスンにさらなる深みを与えた。

 受講生は音大生やピアノ教師が中心だが、なかには岡山から参加したという小学4年生や、最近40年ぶりにピアノを再開したという50歳代男性も。聴講生の体験コーナーも盛況で、小学生の頃からの憧れの曲《月光ソナタ》を、ベートーヴェン時代の楽器で奏でる姿も印象に残った。ピアノという楽器に時代を超えて宿る愛好家精神と、昨今のピリオド楽器への関心の広がりを強く感じた3日間だった。

取材・文=工藤啓子氏